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『吉里吉里人』

「吉里吉里国民は、はぁ、正義と秩序ば基調ど為る国際平和ば誠実に希求す(のんぞみ)、国民の発動(見せびらかし)たる戦争(どんぱち)ど、武力さ依っかがった威嚇(おどす)又ぁ武力の行使は、はぁ、国際紛争(もめごと)ば解決する(ほんどぐ)手段(てだて)とすては、永久に(とことん)これば放棄(ぽい)すっと。この目的ば達すっため、陸海空軍、その他の戦力は、はぁ、保持しない(もたねーど)。国の交戦権は、はぁ、認めねえ。

 美しいのう。子守唄(ねろてば)の様に優しいのう。まるでお天道様だ、公明正大で、よう。
 そすてがらに、まんつまんつ雄々しいのう。力強い(つからづえー)言葉だのう。
皆の衆も知ってのとおり、、俺達(おらだつ)、吉里吉里人は、この条文ば日本国憲法がら盗んだんだっちゃ。この条文さ、惚れで惚れで、惚れ抜いてで、そんでそっくりかっぱらってきたんだっちゃ。吉里吉里国の独立の理由、これは、はぁ、とてもの事にひとくちでは言われねぇ。
独立の理由は千できかねぇ、万でもきかねえ、億ほども、晩(ばんげ)の空の星コの数ほどもあっこった。だども皆の衆、その星コの数ほどもある理由のうちで、キラキラて、一番星より明るく輝(かんがや)ぐなぁ、この第九条す。

日本政府のお偉方ぁ、何かと言うど、この第九条ば継子扱(あつげー)いすて居だったもんだ。
やれ、現状にあわん、やれ、アメリカから占領軍から押しつけられた憲法だ、やれ、ソ連が(中国が)攻めて来たらどうするんだ。

第九条はやいのやいのって苛められて居だったっけ。

日本国の皆の衆が、此様に第九条ば酷く(むごく)扱うなら、俺達がそっくり引き取ってよ、軍備の「ぐ」の字も無しで国ば作ってみせる…… 





                 『吉里吉里人』井上ひさし  より
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by junecat6 | 2019-07-06 20:08 | | Trackback | Comments(0)